2005年12月25日

『パッチギ!』を見た

 遅ればせながら、『パッチギ!』を見た。拉致だの核だのかまびすしいご時勢にこういう映画を作り、しかも興行的にも成功させてしまう井筒監督には敬意を表したい。
 けど、ちょっともの足りなかった。だって朝鮮高校の不良たちがちっともワルくないんだもん。たしかに連中はケンカしてばっかだし、公衆電話ぶっこわして金を盗むは、女の子孕ましてバックレようとするわで、いちおうワルのセオリーを踏んでいるわけだけど、そのワルさが全然うしろ暗くない。日本人の不良グループのバカバカしいまでに徹底した上下関係はコミカルに描かれているけど、それに対して朝鮮人のほうはヤンチャやってる連中も彼らの間では上下など微塵もなく、実にすがすがしい友人関係なのである。これってホンマかいな?
 そして不良のイニシエーションを通過した朝高生たちは、立派な社会人に成長してメデタシメデタシというわけ。
 在日朝鮮人は差別に苦しみながらも、互いに助けあって清く正しく生きている。この映画のこういった朝鮮人の描かれ方は、率直に言わせてもらえば、世間一般の朝鮮人差別の裏返しではないか、と思う。
 人間は残念ながら必ずしもそんなに強くない。差別はしばしば被差別者を屈折させる。それがさらに差別の格好の材料になる。差別問題の解決が難しいのはこの悪循環を断ち切れないからだ。
 差別に抗してひたむきに生きる朝鮮人、なんて図式はまるで薄っぺらいプロパガンダ映画のようだ。被差別者を捉える視点の深さにおいては、ヴィスコンティの『若者のすべて』に到底及ばない。

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posted by 労働者L at 20:11| Comment(2) | TrackBack(1) | 人権

2005年08月30日

甲山を歩きながら考えたこと

 わたしは無趣味な人間だが、しいて言えば、時々日帰りで山登りに出かけるのを楽しみにしている。夏の間は暑さのため山には行かないが、そろそろ涼しくなってきたし低山で足ならしをしておこうと、この前兵庫県西宮市の甲山(かぶとやま)にはじめて登ってきた。
 「甲山」と聞けば、このブログの読者なら甲山事件を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。ご存知ない方は甲山事件救援会のサイトを参照してほしい。一言で言えば、史上最長の裁判をへて無罪が確定した冤罪事件だ。事件の起きた甲山学園はとうの昔に廃止されているが、現場となった青葉寮の建物は現存していると聞いたので、今回足をのばして訪れてみた。
 かっての青葉寮はキリスト教系の病院の病棟として今でも現役だ。5階建の病棟と4階建の老人ホームにはさまれた平屋の旧青葉寮は、あの世間を揺るがした大事件の現場とは思えぬ、あっけないほど小さい建物だった。ホームの老人たちがたたずむのどかな中庭に建つそのコンクリートの建物は、小ぎれいな緑色のペンキで塗りなおされているものの、たしかに時代を感じさせるものだった。
 甲山事件で山田さんがこうむった被害は計り知れない。警察、検察、裁判所の仕打ちは許しがたい。その一方で救援会の方々のねばり強い運動には本当に頭が下がる。
 だが、わたしは歩きながら別のことを考えていた。刑務所のようなパノプティコンの構造をもつ旧青葉寮は、墓地と貯水池にはさまれた人里離れた山の中にある。山田さんは言われなき罪で拘置所に収監されたが、ここの園児たちは知的障害をもって生まれたというだけで甲山学園に隔離されていた。死んだ園児の親が甲山学園に対して起こした損害賠償請求訴訟について、甲山学園の理事長は「障害者は廃人であり、社会的存在価値がない以上親が請求している死んだ子供達の賠償請求は無意味である」と言い放った。もし刑務所長が受刑者の死に際して同様のことを言ったらどうなるだろうか。この発言に抗議して、「我らは、愛と正義を否定する。」という綱領で有名な青い芝の会という脳性マヒ者の団体が座り込み闘争をおこなったこともあった。
 今となっては二人の園児の死が事件か事故か知るすべもない。しかし陳腐な表現を許してもらえるのなら、二人を殺したのはわたしたち健常者社会全体ではないだろうか。わたしは山道を歩きながらそう考えた。
 病院の建物には大きな字で「AGAPE」と書かれていた。ギリシャ語で「愛」という意味だ。

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posted by 労働者L at 20:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 人権

2005年08月10日

風刺と差別

 先日、アッテンボローさんという方から、以下のようなコメントを頂きました。

 (前略)ところで少しだけ気になったことがあります。「バカ」などの言葉を時々使われるのですが、「障害者」差別に繋がるので使用は極力控えられては如何でしょうか。中核派の中でも警察や右翼との口ゲバの時に使っていたのですが、「障害者」解放戦線から問題提起がありました。私自身内なる差別意識を払拭はしきれていませんが、出来る限り注意するようにしています。

 今日はこの問題について考えてみたいと思います。
 まず第一に確認しておきたいことは、ある文章・表現が差別にあたるかどうかを判断するにあたっては、単語より文脈が重要である、ということです。例えば、公衆トイレに「○山×子はエタだ」と書いてあったら、これはまぎれもなく差別以外のなにものでもありません。一方で被差別部落に関する研究書などにも「穢多」「非人」といった言葉が使われています。こういった言葉を避けては被差別部落の歴史を語ることはできないからです。この場合、もちろん差別には当たりません。それどころか被差別部落に関する研究の多くは、部落差別に反対する立場からなされています。つまり、ある言葉を使うかどうかということだけでは差別かどうかは判断できないし、するべきではない、ということです。おそらくアッテンボローさんもこの点を重々承知したうえでのコメントだと思いますので、このことを読者の皆さんと確認し、次に進みたいとおもいます。
 さて、では主観的に差別の意図さえなければ、いかなる表現でも許されるのでしょうか?わたしたちの社会のあちこちで行なわれている差別がおおむね打ち破られた後ならば、そう言えるかもしれません。しかし、現実に差別で苦しんでいる人がいる社会では、そうもいきません。長年部落差別に苦しめられてきた人のなかには、たとえ研究書の中であっても「穢多」という言葉を目にするのもつらい、という人もいるでしょう。トラウマです。
 ただ、それを言うなら、「鉛筆」という言葉がトラウマになっている人もいるかもしれませんし、「時計」という言葉を聞くだけで吐き気を催す人がいないとも限りません。言葉ではありませんが、JR尼崎事故の生存者の人たちは、宝塚線の快速車両を見るだけでつらい、という話です。ですから、このことは気にしだしたらキリがないことではあります。ただ、キリはありませんが、どう考えても「鉛筆」よりは「穢多」という言葉の方が圧倒的に多くの人を苦しめていることは間違いありません。ですから、いわゆる「差別語」は必要な場合以外は使わないのが無難です。
 さて、ここからが本題です。わたくし労働者Lは強きをくじき弱きを助ける論陣を張るためにこのブログを開設しました。ですから、「バカ」とか「アカども」「野蛮人ども」という言葉を使っているからといって、別に知恵遅れの人たちや共産主義者などを差別しようとしているわけではありません。アッテンボローさんもそのことは分かっていらっしゃることと思います。
 それなら前述のごとく、差別する気がないなら、「差別語」は使わないのが無難です。じっさい一般商業紙や「赤旗」「前進」などはそうしています。わたしもそれに倣ったらいいわけです。しかしここにひとつの問題があります。わたしは基本的に左派的なスタンスで(ただし自分の頭で考えて)社会の様々な出来事を論評していきたい、と思っていますが、しかしただの論評なら、わたしのブログよりも「赤旗」や「前進」やその他の左派メディアをご覧いただけばよいわけです。言うまでもありませんが、情報の量も厚みも桁違いです。
 それでも敢えてわたしがこのブログを開設したのは、わたし独自の考えで左派の「常識」にとらわれない論評をするとともに、辛口の風刺・皮肉を展開したかったからです。どのような風刺や皮肉を面白いと感じるか、笑いのツボは人によりけりでしょうが、おそらく風刺というものは人間の弱さ、汚さ、矛盾をえぐり出すところにポイントがあるように思います。いうまでもなくそのような弱さは支配階級の人間にも被支配階級の人間にもあるわけですが、わたしとしては支配階級に照準をあわせて辛口の皮肉をとばすことによって、ともすれば硬直しがちな左派系の言論を笑いで活性化したいわけです。例えば「右翼の人たちは慰霊碑を傷つけるのが正しいことなのかどうかよく考えてほしい」と正攻法でいくかわりに、「右翼のバカ」とあえて突き放すことによって彼(ら)の想像力のなさを糾弾しているわけです。「アラブ人を差別するな」と言うかわりに「アラブの野蛮人どもが…」と支配階級の薄汚い内面を忖度してあえて裏返しの表現をするわけです。
 もちろん風刺のためならどんな汚い言葉でも使ってやろう、などとは思っていません。はっきりと基準があるわけではありませんが、やはりあまりひどい言葉を使うことはためらわれます。もとよりできる限り被差別者の味方になりたいと思っている労働者Lですから、同士撃ちを極力避けつつ資本家階級との効果的なゲリラ戦を闘っていきたいと思っています。アッテンボローさん、これで答えになっているでしょうか?ご助言、ご叱正をお待ちしております。

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posted by 労働者L at 06:59| Comment(3) | TrackBack(1) | 人権